小説の弾丸100連発乱れ打ち(3行小説)
1.
彼はいつも死にたがっている。
自分を繕って、いつも笑っている。
人の賑わう街角の交差点で、信号待ちをしている彼をみつけた。
2.
自由が欲しい。
昼過ぎまで寝ていて、夕方から今日もバイトがある。
穏やかに暮らしたい。
3.
猫の騎士がいた。
猫じゃらしをチラつかせると、藪のなかからピョイと出てきて、腰の剣で一閃。
今日も得意顔である。
4.
女子高生は絶望して、バナナの皮を剥いている。
どうして、スーパーフードばっかり食べてるのに太るんだろう。
雑誌のロールモデルを、今日も眺めてる。
4.
新聞紙が風に吹かれて飛んでいく。
女子高生のスカートや、太った中年男のカツラ、子供の持った風船を掠めて飛んでいく。
アッ、橋の下でホームレスが暖を取っている。
5.
やっと爆弾が完成した。
エナジードリンクの缶がデスクの周りに散乱している。
もう朝か。
6.
つらい人生だった。
思い出したら泣けてくるから、ぼくは全部を忘れることにした。
河川敷で、チャリを漕いでいる。
7.
息が苦しい。
死ぬ。
楽しかった思い出が、たくさん思い出されてきた。
8.
やれやれ、やっと自由だ。
随分とながい間塀の中にいたもんだ。
「ヤッホー」と、武林に向かって叫んだ。
9.
「それで、これからどうするの?」
「どうするもこうするもあるか! フリーダムだ! おれはフリーダムなんだよ!」
星乃珈琲で、昼下がりのひととき。
10.
うるせえこの野郎!
てやんでえ、馬鹿野郎!
夜の十三、しょんべん横丁の一角で、だれかがもめている。
11.
わたしが壁の建設に携わるようになってから、20年が過ぎた。
肺をやられて、死んでいく仲間も何人も見てきた。
今日もつるはし片手に、汗を拭っている。
12.
わたしは完全犯罪を成し遂げたのだ。
部屋は完全な密室。
わたしの代わりに捕まった可哀想な男は、自分が犯人だと思い込んでいる。
13.
奇妙な音がする。
換気扇の故障かと思ったが、どうやらこの音、わたしの胸から鳴っている。
やれやれ。
14.
ついにマシュマロ爆弾の発明に成功した。
街のマシュマロのなかに、無作為に仕掛けておく。
おまえが最後に感じるのは、柔らかな食感だけだ。
15.
くだらない。
「くだらない、くだらない」と、言っていたら、全部がくだらなく思えてきた。
布団から出るのは3時間後にするよ。
16.
鮮血がブシャーッ。
骨がピョーン。
血で血を洗う戦いが始まった。
17.
「ながいトンネルだったね」
敦子が言う。
「そうだね」
18.
縄を手繰り寄せる手が、汗で滑って、なかなか思うようにいかない。
大丈夫、大丈夫だ。
自分に言い聞かせる。
19.
足の感覚がなくなるまで走った。
すぐそばに光が見える。
もう少しだ。
20.
小鳥の声がする。
わたしは川に浮かんでいる。
なまぬるい、風が吹いている。
21.
脳の海馬を摘出する手術を受けることにした。
わたしは明日、人間を辞める。
最後にきみに会いたかった。
22.
「元気だった?」
「元気ってわけじゃないけど、なんとかやってるよ」
紗代子は目に見えて痩せたように思えた。
23.
おれは死んだことがない、おまえも死んだことがない。
軽々しく命の重みなんか語ってんじゃねえよ。
「うるせえ、考え過ぎだよ」
24.
藪のなかからニュッと手が出てきて、引っ張り込まれた。
レイプ!?
振り返ると、猫の騎士が、口元に人差し指を立てていた。
25.
月に着いたはいいが、コンビニがない。
コンビニを作ってみたが、店員がいないので、ひとりで24時間接客をすることになった。
客もいないので、楽チンだ。
26.
「愛してる」
うるさい、やめて離してよ。
「愛してる。愛してるんだ!」
27.
「力が欲しいか?」
壷の中から出てきた魔人は、そう言って鼻をほじっている。
「うるせえ、鼻ほじるのやめてくれる? 手、洗ってきてよ」
28.
やつだ。
やつがきた。
ソファーの陰から、ピョイと顔を出して、こっちを見ている。
29.
「日本武道館、ありがとうございました!」
そこで目が覚めて、無性にかなしくなった。
もう一回、夢を見よう。
30.
あいつが変な踊りを踊っている。
だんだん近づいてきて、鼻先が触れそうなところに顔がある。
そこで、人違いだ、と、気付いた。
31.
筋肉は鍛えれば必ず答えてくれるんだ。
プロテインもそう、必ず結果で返してくれるんだ。
しったことか、動くのは嫌だし金もないんだよ。
32.
初めて書く手紙だから、どう書き出したらいいか分からない。
ただ、元気かな、それだけが気掛かりだ。
でも、生きてさえいてくれればいいんだけどね。
33.
母と一緒に東京ディズニーランドに来ている。
ミッキーマウスと記念写真を撮った。
あたし、ちゃんと笑えてる?
34.
どっちもタップリ、七味をかける。
どんどん、ジャンキーな身体になってくる。
35.
「門を開けて欲しいのか?」
違う、とわたしは応える。
「この先に行きたいだけだ」
36.
うりや!
てい、よいしょ!
軽快に、なんども、なんども、おなじ動き。
37.
「あんたには分からないでしょうね!」
「じゃあ、なんで呼んだの?」
「あんたには分からないでしょうね!」
38.
さっきのキス、もっかいして。
違う。
さっきみたいな感じで、もっかいして。
39.
部屋中の鏡も窓も、全部割った。
全部割ったのに、私の顔が映ってる。
私は顔に爪を立てる。
40.
「日本一の富士山だあ! すげえよ、なんてったって、日本一の富士山だもんな!」
「やめて! いい加減にして!」
「だって、日本一の富士山なんだ! 日本一の富士山なんだよ!」
41.
かなしい、かなしいかなしい。
随分と泣いているあいだに、かなしみってなんだか分からなくなるくらい、わたしはかなしかった。
ああ、かなしいな。
42.
たまごを掻き混ぜて、いい感じに砂糖と醤油を入れて、慎重にフライパンに流し込む。
そこで、あの人のことを思い出して、わたしはたまごを焦がしてしまう。
ああ、駄目だなあ。
43.
花が咲いていた。
花瓶にいけて、大切に水を変える。
だんだんと、花は萎れていった。
44.
絶対だよ。
わかってるよ。
わかってない、絶対だよ。
45.
簡単なバイトだ。
ただし、週4以上で入れる人だけだよ。
週4が無理なら、他に行ってね。
46.
お父さんがちゃぶ台をヒックリ返そうとしたので、わたしはそれを手で制して、もう片方の拳で鼻に1発、畳み掛けるように、往復ビンタを打ち込む。
奥歯が弧を描いて飛んでいく。
「やめて! やめなさい!」
47.
隆とヤったんだって?
うそ、あんたアイツのこと好きなの?
え、うそ、最低じゃん。
48.
壁に31個目の正の字を書く。
水も食料も、もうない。
ちょっと、横になろう。
49.
やかんに跨って、激しく鞭を打つ。
「ヒャッホォ! ヒヤッホォウ! こっちこいよお! おーい、こっちこいよお!」
おれが望んでたのは、こんな幸せじゃない。
50.
リストカットの素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。
楽しい通り越して尊い。
また好きな人と一緒にリストカットしたい。
51.
時間の無駄だよ。
「うるせえな。これがおれの存在の証明なんだ」
カッコつけてるだけでしょ。
52.
ねえ。
しあわせ?
そう、わたしも。
53.
「高いね」
「そうだね」
わたしたちは、もうとっくに腹を括っている。
54.
皆殺しだって。
ああ、それ、聞いたよ。
こわいね、皆殺しだってね。
55.
ぼくはナイフを持って立っている。
額の汗を拭う。
そこで、後ろから声をかけられる。
56.
太陽に喧嘩を売るなんて、どうかしてるよ。
そうか、それならお前も、どうかしてると思うよ。
ああ、おれたちはどうかしてる。
57.
名前なんかつけるから、名残惜しくなるんだよ。
わかってたけど、わかってたんだけどね。
彼はこちらを、振り返りもしなかった。
58.
全部流されちゃった。
友達も、家族も、みんな。
あんたには分からないでしょうね。
59.
意味ない?
そんなこと、やってみなきゃ分かんないじゃん。
やらないあんたに言われたくない。
60.
「拗ねてないよ」
「拗ねてるでしょ」
「うるさい、顔突かないで。爪切ってよ」
61.
「クレープだ! 食べる? 食べるでしょ。2つください」
「何味にしますか?」
3分も考えるなんて、呆れてしまう。
62.
やっとみつけた。
新聞、テレビ、SNS、全部チェックしてた。
今度はもう、気付かれないようにしよう。
63.
あんた、自分に酔ってるだけだよ。
ちがうよ。
あたしのこと好きって言ってる、自分に酔ってるだけだよ。
64.
河川敷に腰掛けて、過ぎて行く電車を目で追っている。
夕陽が水面に反射している。
「それじゃあさ」と、わたしは話始める。
65.
戸を開けると、暗闇のなかで蹲っている影が見える。
「どうしたの?」
と、言ったら、急に甲高い声をあげて立ち上がって、こっちに向かってくる。
66.
手に感触が残っている。
まだヌメヌメする。
嫌になる。
67.
「あいつのフェラチオ最高だから。マジで、お前もヤってみろよ」
「でもなあ。おれ、お金ないし、ティファニーとか買ってあげれないよ。車も持ってないし、あんまりイケメンじゃないし、散髪行ったら変な髪型にされたし、無理なんじゃないかなあ。それにおれ、女の子と喋ったことないし。最近太ったしなあ」
「大丈夫、大丈夫だよ」
68.
なにも考えたくない。
わたしはやってない。
なんにも、やってない。
69.
ここに出口はない。
じゃあ、どこから入ったの?
あそこは入り口であって、出口ではない。
70.
生命維持装置が断続的な音を鳴らし続ける。
誰も訪れることのなくなった病室の隅の花瓶で花が萎れている。
バルーンに溜まった尿を、今日も看護師が捨てる。
71.
夢はなんですか?
言わないよ、笑うじゃん。
笑わない、笑わないよ。
72.
猫が死んでいた。
わたしはスマホで写真を撮った。
10年前のその写真を、今も持っている。
73.
いやな思い出がフラッシュバックする。
大丈夫、大丈夫、と、自分で自分に言い聞かせる。
ほんとは誰かに言って欲しい言葉。
74.
洗濯物を干す。
もう昼過ぎ。
なにをするにも、億劫だ。
75.
ミスドのコーヒーは苦くてゲロマズだ。
「ドーナツに合うじゃん」
こいつの言うことは信用しないし、わたしは、ドーナツは嫌いだ。
76.
「空っぽを感じませんか? みんな、こころに空っぽを抱えているでしょう? 大丈夫、大丈夫ですよ」
「うるせえ! ペテン野郎! ブッ殺してやる!」
「やめて、髪の毛引っ張らないで!」
77.
ドスッ。
鈍い音がして、彼は男の前に倒れ込んだ。
「まず1人」
78.
綿菓子の森に、マカロンの宇宙人が住んでいる。
今日も愉快なお茶会をしている。
おやおや、人間がひとり、迷い込んだようですね。
79.
耳鳴りがして、頭痛とともに目を覚ます。
ここはどこだろう。
部屋には、他に誰もいないみたいだ。
80.
爆音で音漏れのするヘッドホンをして、女の子が寝ている。
パンツは見えそうで見えない。
顔はそんなに可愛くない。
81.
赤いワンピースを着た女装の男が、静かな夜の街を歩いている。
人通りは少ない。
男は、下着をつけていない。
82.
「こんな遺書、恥ずかしくて読めたもんじゃない。こんなのは無効よ!」
「姉さん、カッカしないで。これが父さんの最期の望みなんだから」
作家志望の姉さんは、遺書だろうと請求書だろうと、気に入らなければすぐに難癖をつける。
83.
窓から海が見える部屋。
ずっと憧れていた。
理想よりは小さいけれど、いい部屋だ。
84.
腐ったアボカドみたいな形してるね。
どんな形か、全然わかんないよ。
腐ってても新しくても、大差ないってことよ。
85.
あいつにフライパンだけは持たせるな。
オリーブオイルもだ。
なにがあいつの武器になるか分からん。
86.
部屋に呼んだってことは、そういうことじゃないの?
そうじゃないのよ。
あの子、シリアルキラーなの。
87.
一瞬、祐一の顔が弾けたのかと思った。
爆発したのはスマホだった。
「よかった、大丈夫?」
88.
「あの星の名前知ってる?」
と、彼は言って、星の名前を教えてくれた。
「なにそれ、変な名前」
89.
生きててよかった。
ほんと、生きててよかったよ。
まさかね、生きてると思わなかったもん。
90.
電気ケトルの神話って知ってる?
海が大きな電気ケトルって話?
違うよ、電気ケトルが小さな海なんだよ。
91.
換気扇からものすごい爆音がしたので、驚いて目を覚ますした。
おそるおそる覗き込むと、換気扇の奥で、ヤバいDJがパーティーをしていた。
わたしはこわくて何も言えなかった。
92.
「マズッ! なにこれ? え、これなに?」
わたしは、彩子のやつを一口貰った。
「うわっ、マズッ! なにこれ?」
93.
分かっていましたよ。
いつからだって?
最初からですよ。
94.
何にでもポン酢をかければいいと思っている女の子がいた。
「おまえなあ」と、亮司は言った。
「何にでもポン酢かければいいと思ってない?」
95.
わたしはもう、この部屋から出ない。
出ないったら、出ないぞ。
絶対だ。
96.
やっぱり、旅がいちばんだね。
なんてったって、風を感じられるからね。
風感じてるときがいちばん幸せだわ。
97.
つつく度に、その生き物は大きくなった。
ナドロフルゲネトフスと名付けたその生き物を、わたしは飼うことにした。
こいつを研究することにしよう。
98.
かなしいか?
なんにだって終わりは来るんだよ。
時間の流れには逆らえないよ。
99.
「 」
え、いま、なんて言ったの?
「教えない」
100.
「ありがとうございます! ありがとうございます! どうか、みんながすこしでも幸せでありますように! また、いつかお会いしましょう」
夜は静かに暮れて行った。
彼の言葉は、どこかに届くのだろうか。